活動報告

令和5年度_学生海外活動支援に関わる報告(環境・食料ユニット)

令和5年度に未来社会デザイン統括本部から海外渡航支援を受けた本学学生2名(環境・食料ユニット構成研究室)の活動報告を掲載します。
今後の研究やキャリア形成において、多くの収穫があった海外研修となったようです。本年度も本支援制度を継続していきます。
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環境・食料ユニット 食科学研究グループ
学生活動支援―海外研修成果報告書
「糖尿病ー認知症発症相関遮断を目指した
食機能研究における国際的連携体制の構築」

生物資源環境科学府 生命機能科学専攻
食品分析学研究室 博士後期課程1年(所属学年は令和5年度時点)
中村紗彩

具体的な活動内容
2023年9月末より、カナダ中東部オンタリオ州トロントから西へ約 1 時間程度のゲルフに位置する、カナダ政府の研究機関であるAgriculture and Agri-Food CanadaAAFC)において外国人研究員として研究留学を開始し、20243月現在も継続中である。

まず留学開始直後の9月末に、カナダ、Niagara Fallsにて開催された3rd International Symposium on Bioactive Peptidesに参加した。学会においてはポスター発表だけでなく、5分間のフラッシュトークにも参加した。フラッシュトークにおいては、自身の研究内容を背景、結果、議論も含めて5分間の口頭発表にまとめる必要があり、聴衆の理解を意識してかつ、自身の研究の魅力を最大限に伝える努力をした。惜しくも発表賞は逃したが、初めての対面での国際学会にもかかわらず、的確な質疑応答を行うことができ、発表後には多くの先生方からお褒めの言葉を頂いた。本学会においては機能性ペプチドに関する最先端の知見を得るだけでなく、世界各地から集まった産官学研究者と国際的視野での研究交流を行うことができた。機能性ペプチド研究を世界的に牽引する先生方に加えて、外国人博士学生とも研究交流ができ、国際的な研究ネットワークを構築するに至った(写真1-3)。

学会を終えてからは、受け入れ研究先であるAAFC―Guelph Research and Development Centre(GRDC)のCao博士のもとで研究を実施している(写真4, 5)Cao博士は食品因子による抗酸化作用および抗炎症作用に関する世界的権威であり、Cao博士の指導のもと、現在はカナダの農作物における未利用資源の有効活用を目指した研究を遂行している。具体的には、AAFCの研究開発ネットワークの一つである北米最大の温室研究複合施設(Harrow research and development centre)に赴き、温室栽培された農作物の、可食部でない葉や茎、また規格外のため市場に出すことのできない果実を採取し、これら未利用資源中に含まれるファイトケミカルの包括的なプロファイリングを行っている。さらに、これら資源中の特に抗酸化および抗炎症作用に焦点を置いた生理作用評価も実施している(写真6, 7)。また、自身の研究課題の遂行にあたり、糖尿病が誘導する腸炎症について細胞を用いた試験法の技術習得ならびに、そのほか関連分野の評価技術や周辺知識について理解を深めている。

活動を経て学んだことや成果、感想、今後の展望等
本活動を経て得た一番の収穫は、国際的な研究ネットワークの構築ができたことである。上述の国際学会においては、機能性ペプチド研究を世界的に牽引する先生方を始め、機能性ペプチド研究に従事する海外の大学の博士課程学生との研究交流を果たした。また私が研究を行っている場は政府の研究機関ではあるが、所属するGRDCは農学分野において世界トップレベルのゲルフ大学と隣接しており、共同研究も盛んに行われている。所属研究室にゲルフ大学の食品科学科所属の博士課程学生が在籍していることもあり、食品科学科で行われる公開講義や博士論文公聴会、また大学主催の科学者交流イベントにも積極的に参加することができた。特に、2月末にゲルフ大学で行われたIUPAC世界女性朝食会においては、STEM分野(「Science:科学」、「Technology(技術)、「Engineering(工学)」、「Mathematics(数学)」)における女性研究者との交流ができ、女性のアカデミアでのキャリア形成について改めて考える契機となった。こうした分野にとらわれない国際的な研究者交流を通じて、今後の研究活動における国際ネットワークを構築に努めている(写真7)。これらの交流、また海外での研究活動を通して、世界トップレベルの研究活動を自身の肌身で体感することができた。また、今回構築されたネットワークは、自身の今後の研究者として活動における糧となること確信している。さらに、大学ではなくAAFCというカナダ政府の研究機関において研究を行うことで、農業大国カナダにおける生産者(農家や食品製造現場)ニーズを意識した研究の重要性を実感することができた。このことは、大学での研究との違いを意識させ、今後のキャリアを考える上で重要な経験となっている。また、GRDCでの研究活動をする中で、日本との研究環境に大きな違いを感じた。大学の研究と政府の研究機関という違いはあるかもしれないが、日本の研究室とは異なり、GRDCでは分業制が確立されている。大型機器の管理・運用にはテクニシャンが常駐するなど、実験における様々なサポート体制が整っている。日本の研究室での研究環境では、研究立案から実験、解析までの研究の全てを自分自身で行うことで、実験および結果一つひとつについての理解が深まり、経験の幅が広がったが、GRDCでの研究分業制を通じて、自身のデータや研究テーマの全体像に向き合う時間が増え、大局的かつ俯瞰的な視野の醸成につながっていると感じている。

現在も、GRDCでの研究留学を継続中であり、担当している研究テーマについては、実験を進めると同時に、英語を母国語とする研究者からの添削を受けながら論文を鋭意執筆中である。また、今後もゲルフ大学で行われる博士論文公聴会やAAFCあるいは大学のセミナー等にも積極的に参加する予定であり、研究活動における複眼的かつ国際的な視点を養いっていく。この留学を通じて、今後の自分自身の研究成果が社会ならびに世界に与えるインパクトをしっかりと意識してより一層精進したい。

写真1:フラッシュトークの様子
写真1:フラッシュトークの様子

 

写真2:3rd International Symposium on Bioactive Peptidesの看板の前で
写真2:3rd International Symposium on Bioactive Peptidesの看板の前で

 

写真3:3rd International Symposium on Bioactive Peptides参加者の集合写真
写真3:3rd International Symposium on Bioactive Peptides参加者の集合写真

 

写真4:AAFC―GRDCの前で
写真4:AAFC―GRDCの前で

 

写真5:ローレンス・マコーレー現・農務大臣が訪問された時の集合写真
写真5:ローレンス・マコーレー現・農務大臣が訪問された時の集合写真

 

写真6:Harrow research and development centreのグリーンハウスにて
写真6:Harrow research and development centreのグリーンハウスにて

 

写真7, 8:普段の実験の様子
写真7, 8:普段の実験の様子

 

写真9:ゲルフ大学で行われたIUPAC世界女性朝食会の様子 (URL:https://www.uoguelph.ca/ceps/news/2024/02/celebrating-women-stem-guelph-iupac-event)

写真9:ゲルフ大学で行われたIUPAC世界女性朝食会の様子

 

環境・食料ユニット 農業生産研究グループ
学生活動支援―海外研修成果報告書
「パリ・ソルボンヌ大学での活動について」

農学部生物資源環境学科農学分野
作物学研究室 学部4年(所属学年は令和5年度時点)
皿谷里夏子

私は今回フランス・パリにあるソルボンヌ大学(Sorbonne University)のシードバイオロジー(Seed Biology)という研究室に九州大学未来社会デザイン統括本部からご支援を頂き、2024年1月8日から2月7日までの約1ヶ月間留学いたしました。この活動を「研究課題と海外渡航に至るまでの経緯」・「活動内容とその成果・今後の展望」・「活動を通しての感想」の3項目に分けて報告いたします。

研究課題と海外渡航に至るまでの経緯
私は、農学部農学分野の作物学研究室に所属している学部4年生です。作物学研究室では「作物の環境変動応答を理解し、収量・品質の向上を図る」を掲げ、実験材料としてイネ・ムギ・ダイズ・ササゲを扱っています。私はその中でも、ムギ類の課題である穂発芽問題解決を目指し、主にムギ類の種子発芽に関する研究を行っています。発芽を左右するいくつかの要素の中でも特に活性酸素という物質に着目し日々実験を行っています。活性酸素(Reactive oxygen species; ROS)は過酸化水素やスーパーオキシドなどに代表される酸化力が強い物質のことであり、様々な生命活動の過程で生じています。一般的には生体で害を及ぼす物質であるという認識が強いですが、種子発芽において活性酸素は休眠打破剤として働き、発芽を促進することが知られています。現在、活性酸素シグナルについては不明な点が多く、ムギ類の品質や商品価値が損なわれる穂発芽という課題を解決するために、活性酸素による種子発芽メカニズムの解明が必要とされています。

ソルボンヌ大学(Sorbonne University, France)のシードバイオロジー(Seed Biology)研究室は種子発芽と休眠を制御する細胞・分子活動を研究していて、これまで数々の論文が学術雑誌に掲載されています。また、当研究室の共同研究先でもあり、Christophe Bailly教授が率いる指導教員が5名、大学院生以上が6名、技術職員が3名の合計14名のグループです。Christophe Bailly教授はこれまで活性酸素と種子の発芽・休眠について様々な研究に携わっており、私の研究内容と近く、「種子発芽に関わる活性酸素の細胞内局在の調査」を目的とし留学するに至りました。

活動内容とその成果
具体的な活動内容は、供試材料としてシロイヌナズナを用いて、吸水後の種子胚を採取し、活性酸素を蛍光色素で染色し共焦点顕微鏡を用いて蛍光画像を撮影するというものでした。共焦点顕微鏡とは、レーザー顕微鏡の一種でありレーザーによって励起された蛍光色素を受け取り、画像を作成することができます。そして、この顕微鏡の最大のメリットは、Z軸の分解能が高いため3次元画像を得ることができる点です。上から見た画像ではなく、試料の断片における蛍光の局在を観察することができました。約1ヶ月間、シードバイオロジー(Seed Biology)研究室で実験を行ったことで、実験手法を学び、当研究室で立てた仮説がシロイヌナズナの種子胚において支持されました。

今後の展望は、同大学の作物学研究室の大学院に進学しムギ類を用いて同様の実験を行い、活性酸素の細胞内局在を調査するとともに、種子発芽メカニズムの解明をさらに進めていきたいと考えています。

活動を通しての感想
今回の活動を通して、特に印象に残っていることは意見や考えを求められたことです。パリに到着してすぐ、Christophe Bailly教授とこれからの1ヶ月の予定をお話していた際、私は研究室の一員として実験内容や仮説を説明するときに、主語にMy laboratoryProfessorという単語を使用していました。すると、Christophe Bailly教授に「あなたの考えは?先生の考えじゃなくてあなたはどう考えているの?」と聞かれました。また、教授だけではなく他のメンバーも、実験を進めていく中で、たびたび私の意見を聞き、私が選ぶという機会をたくさん与えてくれました。そこで、自分の意見や考えを述べること、言語化することの大切さに改めて気づきました。フランスに渡航して最初の頃は、言語の壁を強く感じ、説明されることを理解することで精一杯でしたが、徐々にアドバイスが欲しいときや質問があるとき、自分の考えがあるときは拙い英語ではありましたが、自分の言葉でコミュニケーションを図るようになりました。これは、帰国した今でも続けることができていて自分の長所の一つになったと感じています。

最後にこのような貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。関係者の皆様に御礼申し上げます。

写真1.Christophe Bailly教授(右) / Nicole Chaumont氏(中央) / 私(左)
写真1.Christophe Bailly教授(右) / Nicole Chaumont氏(中央) / 私(左)

 

写真2.共焦点顕微鏡
写真2.共焦点顕微鏡

 

写真3.共焦点顕微鏡にスライドガラスを置き観察の準備を行っている様子
写真3.共焦点顕微鏡にスライドガラスを置き観察の準備を行っている様子

 

写真4.シロイヌナズナの胚軸にて撮影した蛍光画像(活性酸素が発光)
写真4.シロイヌナズナの胚軸にて撮影した蛍光画像(活性酸素が発光)