令和7年度 EPReC_学生・若手研究者海外派遣プログラム(タイ・バンコク)報告書
所属:農学研究院
職位/学年:学術研究員
氏名:LEE SEOKHYUN
<具体的な活動内容>
3月3日
COPSへの訪問
チュラロンコン大学のCOPSに訪問してタイにおける海洋プラスチック汚染の現状と関連研究について聴取し、研究交流を行いました(Lee_photo1)。
3月4日
Precious Plastic訪問
PETボトルキャップ(HDPE)の再資源化に関する検討と、リサイクルグッズ製作の実践的体験を実施しました(Lee_photo2)。
JICA訪問
バンコクのJICA事務所を訪問し、現地での業務内容、並びに政府や民間セクターと連携して実施されている多様な事業について理解を深め、意見交換を行いました(Lee_photo3)
3月5日
サマエサン地区のエクスカーション
サマエサン地区のゴミ集積場を視察し、タイをはじめとする開発途上国における廃棄物処理問題の現状と実態を深く理解することができました(Lee_photo4)。
3月6日
東アジア漁業開発センター(SEAFDEC)訪問
東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)を訪問し、加盟機関が実施する多様な水産業に関する研究管理について理解を深め、意見交換を行いました(Lee_photo5)。
<活動を経て学んだことや成果、感想、今後の展望等>
海洋プラスチック汚染に関する研究を進める中で、これまで学術資料を通じて様々な先行研究や事例に触れる機会を得てきました。しかし、その多くは母国である韓国、日本、あるいはその他の先進国のデータに限定されておりました。今回、世界有数のプラスチック生産・消費国の一つとして知られるタイを訪問し、開発途上国におけるプラスチック汚染の現状、さらにはそれに関わる研究者、政府機関、民間団体など多岐にわたる主体の活動を直接体験し、交流を深めることができました。この経験を通じて、プラスチック汚染問題に対する多角的な視点と理解を深める貴重な機会を得られたと考えております。
EPReC 学⽣・若⼿研究者海外派遣プログラム(タイ・バンコク)報告書
所属:工学府 土木工学専攻 資源循環・廃棄物工学研究室所属
職位/学年:修士1年
氏名:中河原大樹
1.はじめに(背景・目的)
海洋プラスチック問題は、陸域で発生した廃棄物が河川や風などを通じて海洋へ流出し、最終的に海岸へ漂着することで顕在化する国際的環境問題である。特に東南アジア地域は、急速な都市化や廃棄物管理体制の未整備により、海洋へのプラスチック流出量が多い地域として指摘されている。
本スタディツアーは、九州大学EPReCプログラムの一環として実施され、タイ・バンコクにおける研究機関、国際協力機関、リサイクル施設、および沿岸地域を訪問することで、海洋プラスチック問題の実態を多角的に理解することを目的とした。特に、海岸漂着物の回収事業に関与する立場から、発生から漂着・回収に至る一連のプロセスを現地で把握し、今後の活動への示唆を得ることを重視した。
2.プログラム概要
本プログラムは2026年3月2日から7日にかけて実施され、チュラロンコン大学(COPS)、リサイクル施設(Precious Plastic)、JICAタイ事務所、東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)、およびサマエサン地区の沿岸地域を訪問した。
各訪問では講義、ワークショップ、フィールド調査、ディスカッションが行われ、海洋プラスチック問題を「研究・政策・現場」の各側面から統合的に学ぶ機会となった。
3.各訪問先における学びと考察
(1)チュラロンコン大学(COPS)
チュラロンコン大学では、参加者および現地研究者とのディスカッションを通じて、「海洋ごみ問題においてどのような知見が求められるのか」「研究者はどのように社会課題に応答すべきか」といった本質的な問いについて議論がなされた。議論の中では、単なる量的把握にとどまらず、発生源の特定や対策の効果検証に資するデータの重要性が強調されていた。
また、自身は十分に議論へ参加できず、英語によるコミュニケーション能力の不足を強く実感した。海洋ごみ問題が国際的課題である以上、研究者には専門知識だけでなく、国際的な議論に参加するための言語能力も求められることを痛感した。この経験は、今後の研究活動において重要な課題認識となった(nakagawara_photo1)。
(2)Precious Plastic
Precious Plasticでは、ペットボトルキャップの再生利用に関するワークショップに参加した。キャップの分別から加工までの工程を体験する中で、マクロプラスチックごみの種類や特性に関する理解を深めるとともに、分別作業の煩雑さと重要性を実感した。
特に、材質や色の違いが再資源化プロセスに大きく影響することから、回収段階における適切な分別が不可欠であることが明らかとなった。この点は、海岸漂着物の回収事業にも直接的に関係しており、回収後の処理を見据えた分別・記録の重要性を示唆している。また、小規模かつ地域主体のリサイクルの取り組みは、制度が十分に整備されていない地域においても実行可能な柔軟なモデルとして注目される(nakagawara_photo2)。
(3)JICAタイ事務所
JICAタイ事務所では、タイにおけるODAの取り組みについて学び、海洋ごみ問題だけでなく、CO₂排出削減や都市環境改善など、分野横断的なアプローチが取られていることが示された。これにより、海洋プラスチック問題は単独の環境問題ではなく、エネルギー政策や都市開発などと密接に関連する複合的課題であることを理解した。
また、こうした多様な課題に対して国際協力を通じて対応することの重要性と同時に、その調整の難しさも認識した。制度や文化、経済状況が異なる国々において実効性のある支援を行うためには、技術的支援に加えて、制度設計や人材育成といった長期的視点が不可欠である。この経験を通じて、国際協力分野への関心が高まった(nakagawara_photo3)。
(4)サマエサン地区(フィールド調査)
サマエサン地区のオープンダンピングサイトでは、廃棄物が適切に処理されず自然環境中に放置されている状況を確認した。廃棄物は降雨や風によって周辺環境へ拡散し、最終的には海岸へ漂着する可能性が高いと考えられた。
この現場観察により、海岸漂着物の回収は「結果への対応」であり、その背後には発生源管理の問題が存在することを実感した。すなわち、回収活動のみでは問題の根本的解決には至らず、廃棄物管理体制の整備や発生抑制策と連携する必要がある。このように、現場レベルでの観察は、海洋ごみ問題の構造理解を深める上で極めて重要である(nakagawara_photo4)。
(5)東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)
SEAFDECでは、漁業活動と海洋ごみの関係について、タイおよびASEAN地域における取り組みを中心に学ぶことができた。漁業由来のごみも一定程度存在するものの、海洋ごみ問題は漁業分野単独で完結するものではなく、陸域由来ごみや廃棄物管理体制とも密接に関連していることが示された。
また、自身の研究対象が日本であったため、既存の知識を整理するとともに、タイやASEAN地域における状況の違いや、広域的な対策を進める上での困難さを具体的に理解することができた。特に、国や地域をまたぐ海洋ごみ問題に対しては、単一国家ではなく、地域全体を対象とした包括的な枠組みが必要であることを実感した。
さらに、SEAFDECのように漁業・環境・政策を横断的に扱う組織の存在は、複雑な海洋ごみ問題に対応する上で極めて重要であると考えられる。このような地域横断的かつ分野横断的な連携体制の構築が、今後の対策の鍵となると示唆された(nakagawara_photo5)。
4.全体を通し学んだこと
本スタディツアーを通じて、海洋プラスチック問題は「発生・流出・漂着・回収」という一連のプロセスとして捉える必要があることが明らかとなった。特に、陸域における廃棄物管理の不備が流出の主要因となっており、海岸での回収活動のみでは根本的な解決には至らない。
一方で、回収事業は問題の可視化やデータ収集の観点から重要な役割を果たす。したがって、回収活動を単なる清掃としてではなく、発生源分析や政策評価に資するデータ収集の機会として位置付けることが求められる。また、回収後の処理・再資源化の仕組みを構築することで、回収事業の持続可能性を高めることができる。
5.自身の研究・活動に対して
本スタディツアーは、海岸漂着物の回収事業に対する認識を大きく深化させるものであった。第一に、回収活動においては、品目別の記録やデータ化を行うことで、発生源の特定や対策の評価が可能となる。第二に、回収後の処理や再資源化を含めた一体的なシステムの構築が必要である。第三に、発生源対策との連携を意識し、上流側の問題にも視野を広げる必要がある。
さらに、国際的な研究・政策議論に参加するためには、英語による発信能力の向上が不可欠であり、今後の重要な課題であると認識した。
6.おわりに
本スタディツアーは、海洋プラスチック問題を現場・研究・政策の観点から統合的に理解する貴重な機会となった。特に、海岸漂着物の回収事業の意義と限界を再認識するとともに、より効果的な対策に向けた方向性を考える契機となった。
今後は、本ツアーで得られた知見を活かし、回収事業の高度化と発生源対策の連携に取り組むとともに、国際的な視点を持った研究・実践を進めていきたい。