活動報告

令和6年度_学生海外活動支援に関わる報告(脱炭素ユニット)

令和6年度に未来社会デザイン統括本部から海外渡航支援を受けた本学学生(脱炭素ユニット構成研究室)の活動報告を掲載します。
海外の研究者との交流を通じ、今後のキャリア形成においても有意義な、多くの収穫があった海外研修となったようです。

脱炭素ユニット 光化学技術創成グループ
学生活動支援―海外研修成果報告書
「ミュンヘン工科大学での活動報告」

総合理工学府 総合理工学専攻
光・電子機能化学研究室 博士後期課程
安楽滉允

2024年6 月初旬から8 月初旬の約2か月間にわたり、ドイツのバイエルン州シュトラウビングにある、ミュンヘン工科大学シュトラウビングキャンパスのRubén D. Costa 教授の下で研究活動を行った。

研究課題と渡航目的
以前の研究において、現所属研究室の指導教員であるアルブレヒト建 准教授とミュンヘン工科大のRubén D. Costa 教授のグループとの共同研究により、樹状高分子であるデンドリマーを発光材料として用いた長寿命の電気化学発光セル(LECLEC)の開発に成功している。黄色発光を示すこのDendri LEC (デンドリマーを用いたLECLEC)はデバイスの駆動寿命は純有機物の発光材料を用いたデバイスの中では最高水準に達しているがその輝度は低く、改善が求められていた。このことを踏まえて、新たに設計・合成した末端置換基の違う三種類の黄色発光デンドリマーの薄膜での発光量子収率(PLQYPLQY)を測定したところ、うち一つが先行研究のデンドリマーの約2倍のPLQY を示したことで、LEC 応用時の輝度改善が期待された。
今回の滞在では新たに設計・合成したデンドリマーを用いて、長寿命かつ高輝度なLEC の開発を目的として研究を行った。

活動内容
今回の滞在では主にデンドリマーを用いたLEC の作製および素子性能評価を行った。LEC
は有機EL と同じ電界発光デバイスの一つであり、発光材料・電解質・有機高分子等の混合物で構成された発光層を電極で挟み込んだだけの単層デバイスである。このシンプルな素子構成や、LEC 特有の電荷注入機構により電極の選択肢が幅広い点などにより、近年注目を集めている。LEC に関する論文を多く報告しているRubén D. Costa 教授の研究室では、LEC 作製や素子評価、薄膜の形態観察、電気化学測定、分光測定など、あらゆる実験が可能なほど設備が充実していた。
実際に新規開発したデンドリマーを用いて、有機高分子の種類やこれらの比率等を適宜変更しながらLEC 素子の最適化を試みた。結果として先行研究よりも高い輝度を持つLEC の開発に成功したが、素子寿命のさらなる改善が課題となった。
今後の展望としては、LEC の劣化メカニズムを調査することで、輝度・寿命それぞれを高
い水準で有するLECLECの開発を検討する(写真1~3)。
また、渡航期間中に参加したワークショップと国際学会において口頭発表およびポスター発表を行い、近い分野だけでなく他分野の研究者たちともディスカッションすることで、これまでにない発見や今後の研究活動につながる知見を得ることができた(写真4)。

活動を経て学んだこと・感想
これまでの自身の研究では、設計した分子を合成し、その基本的な光学物性等を評価することが主だったが、今回の滞在ではこれらの基礎物性を踏まえて発光デバイスを作製するという応用に向けた研究を行った。実際にデバイス作製を経験したことで、今後、デバイス応用時の課題等のより具体的なイメージを持って分子設計や物性評価を行えると確信している。また今回の活動を通じて、非常に初歩的なことではあるが英会話能力の重要性を身に染みて痛感した。様々な国籍のメンバーが集うRubén D. Costa 教授の研究室においては、当然のことながら英語がラボの共通語であった。ラボ内では英語での議論が行き交っており、自身の研究を進めるうえでも相手の主張を正確に読み取り自分の主張を正確に伝えることが求められたため、自分の英語力を見直すまたと無いきっかけとなった。このことは、日常の研究活動だけでなく、渡航期間中に参加したワークショップや国際学会でも強く感じた。今後グローバルに活躍できる人材になるためには言わずもがな英語力は必須であり、今回の渡航ではそのことを経験として実感できたため、この経験を糧により一層努力したい。

写真1:実験の様子
写真2:グローブボックス内での作業の様子
写真3:電気化学発光セルの発光
写真4:ワークショップ後の集合写真