令和7年度に未来社会デザイン統括本部から海外渡航支援を受けた本学学生(工学府応用化学専攻)の活動報告を掲載します。
海外の研究者との交流を通じ、今後のキャリア形成においても有意義な、多くの収穫があった海外研修となったようです。
脱炭素ユニット 光化学技術創成グループ
学生活動支援–海外研修成果報告書
「ヨハネスグーテンベルク大学での活動報告」
九州大学工学府応用化学専攻 博士後期課程1年
古田 龍嗣
2025年6月上旬から8月下旬の3ヶ月弱にわたり、ヨハネスグーテンベルク大学 (ドイツ・マインツ) のKatja Heinze教授の研究室に滞在し、研究活動を実施した。マインツはフランクルト近郊に位置する歴史と文化の豊かな都市であり、滞在期間中はこの地を拠点に、自身の色素の分光測定を実施すると同時に、世界最先端の遷移金属錯体に関する知見の習得に務めた。
渡航の経緯と目的
昨年度より完全な新規テーマとして、近赤外領域 (NIR) における高輝度な発光、および強力な円偏光発光の実現を志向した、クロム (Cr) 錯体の開発を開始した。所属研究室だけでなく、国内にもほぼ前例がなく、0からの研究環境の構築が求められる挑戦的な研究テーマである。世界的に見ると、滞在先のHeinze教授らのグループが先導的な役割を担っており、昨年度、指導教員である小野利和准教授が同研究室にVisiting Researcherとして研究滞在を行ったことを契機に、共同研究に関する合意を得た。こうした背景のもと、国際的な第一線で得られる技術・知見・環境を自身と所属研究室に還元し、さらに国際的な共同研究を持続的に推進することを目的として、今回の滞在が実現した。
活動内容
滞在期間中は、日本で合成した2種類の中性2核Cr(III)錯体を持参し、主にNIR発光特性の精密評価と磁性評価に取り組んだ。分光測定では、蛍光スペクトル・励起スペクトル・発光寿命測定を室温から低温(77 K)まで行い、特に800–900 nm付近におけるCr特有の鋭い長寿命な発光ピークを確認した。温度依存性の解析により、発光寿命の延長と発光強度の向上が観測され、発光消光過程の抑制メカニズムに関する示唆を得た。磁性測定では、同大学のEva Rentschler教授らとの共同研究としてSQUIDを用いた温度依存磁化測定および磁化曲線の取得を実施し、2つの金属中心間の磁気的な相互作用に関する知見を得た。これらの実験を通じて、電子構造と光学特性の関連性を複合的に議論できる基礎データを蓄積した。また、研究室内のセミナーへの参加や研究室メンバーとのディスカッションを通じて、Cr錯体に限定されず、幅広い遷移金属錯体の合成戦略的や物性評価手法に関する知見を得ることができた。
さらに、研究室外での活動として、滞在中にドイツ・アーヘンで開催された国際会議ICP2025に参加し、修士課程までの研究で得られた発光性ホウ素錯体に関する成果を口頭発表した。世界各国の研究者と直接議論することで、自身の研究の位置づけを再確認するとともに、今後の展開に向けた新たな着想を得る機会となった。この際に、ICP2025での発表を目的として、自身のホウ素錯体についてもドイツに持参し、過渡吸収測定およびその解析手法を実際に学んだことで、自身の時間分解分光に関する専門性を深めることができた。
研究活動を通じた所感・謝辞
今回の滞在を通じて、最先端の遷移金属錯体に関する知見や帰国後の研究環境の構築に関するヒントを多く得られただけでなく、国際的な共同研究の場で必要とされる実務能力や研究遂行力、英語力を培うことができたと感じている。特に英語力に関しては、リスニングおよびスピーキング力に関する自身の課題が大きく浮き彫りとなったことから、帰国後も継続的に努力を続ける大きなモチベーションとなった。また、今回が自身にとって初めての海外長期滞在の経験であり、生活面に大きな不安も感じていたが、住居の確保や交通利用、休日を利用した旅行、学会などの各種手続きを進める中で、研究に関係なく自立心や問題解決能力が自然と培われたように感じている。今回の貴重な経験・知識を糧に、国際的な化学研究者として更なるステップアップを続けていきたい。
最後になりますが、今回の留学に推薦頂き、ご指導・ご鞭撻頂きました、小野利和准教授に感謝申し上げます。研究・生活両面で大きくサポート頂きました受入先のKatja Heinze教授とそのグループメンバー、およびRobert Naumann博士に感謝申し上げます。磁性測定に協力頂いたEva Rentschler教授、Luca Carella博士に感謝いたします。最後に、本研究プロジェクトの遂行にあたり、九州大学未来社会デザイン統括本部から多大なるご支援を賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。